磁性膜の成膜の例として、Co-Cr合金薄膜をHDDの記録層として成膜しました。この系では、優れた垂直磁気記録膜を実現するために、C軸配向したCoリッチHCP結晶構造(垂直磁区)とCrリッチな非磁性層のHCP結晶構造(非磁性領域)とを格子欠陥を生じることなく分離したまま垂直方向に成長させる技術が必要です。NFTS技術により、Co-Cr垂直記録薄膜形成では粒界に格子欠陥の無い多結晶薄膜の形成が出来る事を実証しました。また、粒界に格子欠陥の無い多結晶薄膜についてCoリッチな部分を選択的に溶出したサンプルをTEM観察した結果、NFTS技術は垂直方向に 3~ 5 nmサイズのCo磁区成長と磁区周囲にCrリッチな非磁性層を形成できる製膜技術であることを証明しました。
下図にCo-Cr薄膜の緻密な粒子成長の例を、従来のスパッタ技術と対比して示します。従来の製法ではCoリッチ領域とCrリッチ領域との偏析(相分離)が粒界を起点として粒内に帯状に生じているのに対して、NFTSによる偏析は粒内、粒界に関係なく微細な分散状態が観察されます。従来のスパッタ膜では、特に粒界を起点にして磁区分離するように記録膜が成長するため、島状構造の初期層から連続層となる過程で粒界のサイズは常に成長・消滅しながら粒成長しているために磁石となるCoリッチ領域と磁石を分離するCrリッチ領域とは垂直方向にランダムな配列で成長すると考察されます。このためnmサイズの微細磁区が形成されても記録ビットに対応して形成される磁極については微細磁区の集合として磁化が保存される際、周囲の不安定な磁化領域が反転(逆磁区)し易くなると考察されます。
▲Co-Cr薄膜の緻密な粒子成長例