現在一般的に使用されているスパッタリング装置はマグネトロンスパッタリング装置です。図に示すように、マグネトロンスパッタリング装置は基本的にターゲットと基板が向かい合った構造となっており、ターゲット背面に設置した永久磁石がターゲット表面に形成する磁場と電源からターゲットに供給されるマイナス電圧によりターゲット表面に電界を形成します。 この電磁界の影響により電子はターゲット表面を円を描くように周回し、この電子が真空槽内に導入されたArガスと衝突しArイオンを発生させることでターゲット表面にドーナツ状の高密度プラズマ(マグネトロンプラズマ)を形成します。 このターゲット表面に形成したマグネトロンプラズマ中のArイオンがターゲットに印加されたマイナス電圧(カソードシース)により加速され、ターゲットをスパッタし、たたき出されたターゲット材料が基板上に付着することにより薄膜を形成します。
▲マグネトロンスパッタリング装置概略図
従来型のマグネトロンスパッタリング法はシンプルな装置構造をしており、様々な材料の薄膜を比較的容易に形成できることから薄膜形成に広く用いられています。しかし、マグネトロンスパッタリング法はターゲットと基板が向かい合う構造をしているため、ターゲット表面に形成される高密度プラズマ内の電子が基板に流れることでジュール熱が発生し、基板温度を増加させます。また、ターゲット表面で反射された高エネルギーAr粒子や酸化物ターゲットを用いた場合ターゲットから飛び出しターゲット表面のカソードシースで加速された酸素イオン(負イオン)が向かい合う基板表面と衝突しダメージを与えることで、基板上に形成する薄膜の品質を低下させることがあります。
近年、半導体デバイス分野や光学デバイス分野、結晶酸化膜分野では低ダメージ成膜による良好な界面形成や高品質薄膜形成がますます重要となっています。 また、ディスプレイやタッチパネル分野などではプラスチックフィルム上へ透明導電膜やバリア膜の形成において低温成膜によるコンパクトでシンプルな成膜装置が重要となっており、有機ELディスプレイに代表される有機物デバイス上への無機薄膜の形成では、低温に加え低ダメージ成膜が重要となっています。これらの分野では従来型のマグネトロンスパッタリング技術の改良では問題の解決が難しく新たな成膜技術が必要とされています。