透明断熱フィルムとは太陽光可視光(近紫外の波長 400 nm から近赤外の波長 650 nm)透過率 70 % 以上で太陽熱線となる赤外線遮断が30 %程度となるフィルムであり、夏場は車や建築窓を含むガラス窓を通して貫流する太陽エネルギーを抑制し、冬場は住環境で生じる遠赤外線が窓から外部への流出を防ぐことができる環境にやさしい製品です。
透明断熱フィルムの構造は半透明な高伝導性層と高屈折率な透明酸化膜をそれぞれ数10 nm の膜厚で3層あるいは5層、7層と多層膜とすることで電磁波に対するローパスフィルターを構成することで製品化が実現されています。下図の断面TEM像はポリエステルフィルム(PET)上に、マグネトロンスパッタリング法により形成したサンプルとNFTS技術により形成したサンプルをそれぞれ断面TEMにより比較を行いました。
マグネトロンスパッタリング法によって成膜した多層膜構造(断面TEM像(a))では、成膜時における応力が原因と考えられる膜破断による透明な亀裂と10 nm 程度の半透明 Ag層が球状に凝集することで生じる横方向の透明な空層が観察されます。銀系薄膜は大気中に放置すると Ag原子の移動により凝集する性質を持っており、薄膜中の Ag原子の移動は Ag原子同士の結合が弱い部分から起こる傾向にあります。マグネトロンスパッタリング法成膜でのこの結合が弱い部分の原因として、成膜中加わる反跳粒子などの高エネルギー粒子の衝撃が原因だと考えられます。以上の原因により、TEM による断面観察においても 30 nmφ 程度の球状 Ag が観測され、堆積した10 nm 程度の Ag層は空層の痕跡となっていると考えられます。
(b)にはNFTS技術で作製した5層構造の透明断熱フィルムの断面TEM像を示します。本サンプルは作製後数年間大気中に放置したもので、2層のAg系薄膜と3層の透明酸化膜の5層を構造となっています(黒色がAg薄膜、半黒色が透明酸化膜)。この断面TEM像からAg原子の移動による凝集などは観測されません。NFTS技術により形成されたAg薄膜は成膜中高エネルギー粒子などの衝撃を受けることがないためAg原子同士の弱い結合を形成することなくAg原子の凝集を抑制していると考えられます。
▲透明断熱フィルムの断面TEM像